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札幌地方裁判所 昭和35年(行)10号 判決 1962年2月16日

原告 北海製紙株式会社

被告 北海道地方労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が申立人全国紙パルプ産業労働組合連合会北海製紙労働組合被申立人北海製紙株式会社間の昭和三五年道委不第二一号事件につき、昭和三五年一一月三〇日付で発した命令は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を、被告は主文同旨の判決を各求めた。

原告の請求原因事実

一、原告は肩書地に本社及び小樽工場を、函館市に函館工場を設け、紙の製造販売を業としている資本金五〇、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社である。会社の従業員数は約二五〇名で、その中約二〇〇名を以つて労働組合が組織されており、これは全国紙パルプ産業労働組合連合会(以下単に紙パ労連という)に加盟し、同連合会北海製紙労働組合(以下単に組合という)と称している。

二、(1) 組合は昭和三五年一一月七日原告会社に対し年末一時金支給の要求をなし、これに関する団体交渉については同月一五日紙パ労連北海道地方本部と共同で交渉したい旨申し入れて来た。

(2) 原告会社はこれに対し右一時金問題についての団体交渉を昭和三五年一一月一六日から行うべき旨の意向を示す一方、交渉方式については、当時の労働協約の条項に基き原告会社と組合で行うべく、組合の再度の申入れに対しても非従業員を交えた共同交渉方式若くは組パ労連北海道地方本部役員に交渉権限を委任した交渉方式には応じ難い旨回答した。

(3) そこで組合は昭和三五年一一月一〇日被告委員会に対して不当労働行為救済の申立をなし、同委員会は審査の結果同月三〇日組合の申立を認容する旨の別紙命令(以下単に本件救済命令という)を発した。

三、しかるに本件救済命令は次の事由によつて違法である。

(1)  本件救済命令は原告会社が年末一時金に関する組合との団体交渉を拒否していないに拘らず団体交渉拒否を認定している。即ち本件において原告会社は組合と団体交渉を行うこと自体について何等の異議はなく、たゞ労働協約違反の交渉方式について組合と意見を異にしていたため具体的な団体交渉に入り得なかつたにすぎないのであつて、これは原告会社としても昭和三五年一一月一六日から団体交渉を行うことを組合に回答していることによつても明らかであり、これを軽々に団体交渉拒否となしたのは重大な事実の誤認がある。

(2)  原告会社と組合との間に本件当時有効であつた労働協約には団体交渉の方式について委任禁止条項があり、原告会社の労使関係においても組合結成以来現在までこれにのつとつて正常且つ円満な団体交渉が為されて来たのであつて、本件救済命令は、かような労働協約及び労働慣行が労使間において法的性格を有する点を特段の事情なく無視したのであつて、労働協約の解釈適用に重大な誤謬を侵している。

被告の答弁並びに抗弁

一、原告の請求原因事実に対する答弁

(1)  第一項は認める。

(2)  第二項は認める。

(3)  第三項は争う。

紙パ労連北海道地方本部は北海道に所在する紙及びパルプ関係の労働組合を以つて組織する労働組合法に定める資格を有する労働組合(連合体)である。かかる労働組合の連合体は労働協約等に特別の定めがない限り前記の如き共同交渉を求める権利はないが、本件要求の交渉事項は紙パ労連北海道地方本部で定めた事項であり、組合と右地方本部が各別に交渉に当つていたのでは交渉事項の性質上時期を失することになるから組合は紙パ労連北海道地方本部役員に交渉の委任をなし団体交渉の申入れを為したものである。

しかるに原告はこの申入を拒否したものであるが、団体交渉の委任を受けて交渉すべき者が、同一事項について自らも交渉権限を有する同種産業の労働組合を以つて組織する上部団体の交渉委員となるべき役員であり、しかも自ら同一事項について、あらかじめ団体交渉の申入れをしている者であり、また交渉事項の性質上急を要する事項であつて、相手方はこれが団体交渉に応じても特別の支障の生ずるおそれのない場合には労働協約に委任禁止条項がある場合であつても団体交渉に応ずる義務があり、これに応じない原告会社の本件団体交渉の拒否は特段の理由がない限り権利の濫用であつて不当労働行為を構成するものであり、被告委員会の為した本件救済命令にはなんら違法な点はない。

二、抗弁

仮りに被告の前記主張が認められないとしても、原告は本件救済命令の取消を求める利益は消滅した。即ち、本件救済命令は昭和三五年一一月七日付一時金要求に関するものであるが、右命令交付後同年一二月一五日紙パ労連北海道地方本部役員がオブザーバーの資格で出席し、原告会社と組合の間に交渉が妥結成立して右一時金問題は解決した。更に原告会社と組合との間の当時の労働協約第一〇条には交渉委任禁止条項が存在したことは認めるが、右労働協約は昭和三五年一二月三一日期間満了により失効し爾後は労働組合法第六条の規定によつて律せられることになるから今後は本件のような紛争のおきるおそれはなく、この点からも、原告は本件救済命令の取消を求める利益がない。

被告の抗弁に対する原告の答弁

被告委員会が本件救済命令を発した後、被告主張の日に原告会社と組合との一時金要求に関する交渉が妥結成立したことは認めるが、これは原告会社は本件救済命令の当否を争いつゝ不慮の事態を回避するためになしたものである。更に本件救済命令は昭和三五年度年末一時金という特定事項に関しての判断ではなく、その中心は組合の主張する交渉方式に原告会社が応じないことの適否についての判断であつて、労使関係が継続的なものであること及び労働委員会の命令が労使間の慣行を確立するものであることを考慮すると、本件において組合主張の交渉方式に応じないという会社の態度一般を、労働組合法第七条によつて禁止された違法行為と目されるところの不当労働行為の烙印を押されることは、将来の労使関係労務管理に著るしい支障不利益を伴うものであつて、当時の労働協約が被告主張の如く現在は失効しているが、本件救済命令が取消されることなく存在することは原告会社にとつて重大な利害があり従つて本件救済命令の取消を求める利益は当然に存在する。

理由

原告主張の請求原因事実第一項第二項記載の各事実は当事者間に争いがない。

そこでまず原告の本件請求の訴の利益の有無(被告主張の抗弁)について判断するに、原告の主張する本件救済命令はその主文において明らかなように、昭和三五年一一月七日付一時金要求につき組合が委任した紙パ労連北海道地方本部役員との団体交渉を拒否することの禁止を命じたものであると解すべきところ、前記一時金要求について昭和三五年一二月一五日原告会社と組合との間に交渉が妥結成立したことは当事者間に争いのないところである。右の如く本件救済命令の対象となつた昭和三五年の年末一時金要求の団体交渉が既に労使間で妥結した以上、仮りに本件救済命令が取消されたところで右団体交渉の経過並びに結果を左右するものでないから、本件救済命令を取り消す必要性は存しなくなつたものと言わなければならない。原告はこれに対し、本件救済命令が昭和三五年の年末一時金要求に関するものであることを認めながら、労働委員会の命令が労使間の慣行を確立するものであること、組合主張の交渉方式に応じないという原告会社の態度一般を違法な不当労働行為として烙印を押したものであることを理由に、これは原告会社側において将来の労使関係、労務管理に著るしい支障を伴うものであるから本件救済命令を違法として取消を訴求する利益があると主張するが、かような利益は結局事実上の利益不利益にしか過ぎず、これを以つて本件救済命令の取消を求める利益と目することはできない。

右に述べた如く、昭和三五年一時金要求に関する団体交渉について被告委員会が為した本件救済命令の取消を求める原告の本訴請求は、右事項についての団体交渉が既に妥結成立した以上訴の利益がない。よつて原告のその余の主張を判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井敬二郎 海老塚和衛 定塚孝司)

(別紙)

命令書

小樽市奥沢町五ノ八四

申立人 全国紙パルプ産業労働組合

連合会北海製紙労働組合

右代表者執行委員長 島倉広吉

小樽市奥沢町五ノ八四

被申立人 北海製紙株式会社

右代表者代表取締役 森久則

右当事者間の昭和三五年道委不第二一号事件について、当委員会は、昭和三五年一一月二六日開催の第三三四回および同月三〇日開催の第三三五回各公益委員会議において、会長公益委員矢吹幸太郎、公益委員内海勝、同岡本理一、同舛谷富勝、同鎌田正三、同荘子邦雄出席し、合議の上、つぎのとおり命令する。

主文

被申立人は、申立人の昭和三五年一一月七日付の一時金要求につき、申立人が委任した全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部の役員との団体交渉を拒否してはならない。

理由

一、申立人主張の要旨

申立人は主文と同趣旨の救済命令を求め、その理由としてつぎのとおり主張した。

(一) 被申立人は紙の製造販売を業とする会社であつて申立人はその従業員で組織する労働組合であり、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部に加入している。

(二) 申立人は、昭和三五年一一月七日、被申立人に年末一時金支給の要求をなし、これに関する団体交渉については、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部と共同で交渉したい旨申入れたが、被申立人より共同交渉を拒否されたので、同月九日、申立人の交渉権限を全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部役員に委任し、右組合書記長竹森義夫より、同日、被申立人に対し団体交渉の申入れをなした。

(三) ところが、被申立人は、当事者間の労働協約に従業員以外の者に団体交渉の委任をすることを禁止する旨の定めがあることを理由として、右の団体交渉を拒否した。

(四) しかしながら右禁止条項は右組合の如き上部団体を含む趣旨ではない。このことは、被申立人が、昭和三五年五月三日、昭和三五年四月以降の賃金ならびに夏期一時金の要求に関し、当事者間で団体交渉を行うにさいし、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部の役員が申立人の委任を受けて団体交渉に出席することを拒否しない旨の北海道地方労働委員会の和解勧告を受諾していることからも明らかであろう。従つて、本件団体交渉拒否は労働組合法第七条第二号の不当労働行為であるから、その救済を求める。

二、被申立人主張の要旨

被申立人は申立人の申請を棄却する旨の決定を求め、つぎのとおり主張した。

(一) 申立人主張の事実のうち、(一)ないし(三)を認める。

(二) しかしながら、当事者の労働協約には「会社および組合は、会社役員または従業員以外の者に交渉を委任しない。」、また「団体交渉は交渉委員をあげて行うものとし、組合の交渉委員は従業員である組合員に限る」旨の定めがあつて、上部団体の役員と雖も、被申立人の従業員でない限り、団体交渉の交渉委員となることはできない。

(三) また申立人主張の如き和解の成立したことは争わないが、右和解は和解勧告に記載された特定の団体交渉に限るものであつて、その他の団体交渉には関係がない。

(四) 従つて被申立人が申立人の本件団体交渉を拒否することは正当であつて、不当労働行為となるものではないから、申立人の申立は棄却さるべきである。

三、当委員会の判断

(一) 被申立人は紙の製造販売を業とする会社であつて、申立人はその従業員で組織する労働組合であり、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部に加入していること、申立人は、昭和三五年一一月七日、被申立人に年末一時金支給の要求をなしこれに関する団体交渉については、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部と共同で交渉したい旨申入れたが、被申立人より共同交渉を拒否されたので同月九日、申立人の交渉権限を全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部役員に委任し、右組合書記長竹森義夫より、同日、被申立人に対し団体交渉の申入をなしたところ、被申立人は、当事者間の労働協約に従業員以外の者に団体交渉の委任をすることができない旨の定めがあることを理由に、右団体交渉を拒否したことは当事者間に争がない。

(二) 全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部が、北海道に所在する紙およびパルプ関係の労働組合をもつて組織し、労働組合法に定める資格要件をそなえる労働組合であることは、当委員会に顕著な事実である。

(三) しかるときは、全国紙パルプ産業労働組合連合会北海道地方本部は、その組合員である申立人に所属する被申立人従業員の年末一時金問題につき、被申立人と団体交渉をなす権限のあることはいうまでもないことであつて、前記の如く、被申立人に対し申立人と共同で団体交渉をなすべきことを申入れたのを、被申立人が拒否したのは共同交渉という交渉の方法に反対するためであること、申立人は右団体交渉が拒否されたので、右組合と各別に団体交渉を行つていては、交渉事項の性質上まにあわぬので、本件申立事実のような交渉の申し入れをなしたものであること、ならびに前記協約の定め以外には、本件団体交渉をなすことにより特に被申立人に支障の生ずるおそれのないのに、上部団体の役員が交渉の席にあらわれることを忌避するために、ことさらにこれを排除しているものであることが、審問の全趣旨からうかがわれる。

(四) 右の如く

(イ) 団体交渉の委任をうけて交渉すべき者が、同一事項について自らも交渉権限を有する同種産業の労働組合をもつて組織する上部団体の交渉委員となるべき役員であり、しかも自ら同一事項について、あらかじめ団体交渉の申入れをなしている者であり、

(ロ) 交渉事項の性質上、急を要する事項であつて、

(ハ) 相手方はこれが団体交渉に応じても、特別の支障を生ずるおそれのない場合には、労働協約に委任禁止の条項がある場合であつても団体交渉に応ずる義務あるものというべきである。このことは権利の行使が、法の精神に照し信義に従い誠実になすべきものであることから当然であつて、また団体交渉権は勤労者の権利として憲法の保障するところであり、これを剥奪しまたは著しく困難ならしめるためにのみ制限を加えることは許されないことであるのに、前記のような場合に協約の委任禁止条項をあげるのみで、格別の理由を示さず、団体交渉を拒否することは適当ではない。

(五) しからば、被申立人の所為は労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であるから、申立人の申立を認容し、労働組合法第二七条および中央労働委員会規則第四三条に則り、主文のとおり命令する。

昭和三五年一一月三〇日

北海道地方労働委員会

会長 矢吹幸太郎

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